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薬の体内での動き 3「薬の体内での動き」最終回です。肝臓で代謝を受けた薬は、これから体中をめぐってゆくことになります。 〈循環器系へ〉 肝臓で第一次通過効果を受けた薬は、血液の流れに乗って心臓にたどり着きます。 心臓は常に休むことなく動き続け、ポンプのように体中に血液を送り出しています。このように、全身の血液供給に関わる心臓・血管を循環器系と呼び、心臓はその循環器系の要です。 血液は栄養や酸素など、細胞が生きていくために必要なものを24時間休み無しで供給し続けます。そして、細胞が呼吸して出した二酸化炭素や、その他の老廃物を受け取り、心臓へ戻っていきます。 心臓から送り出された血液が通るのが動脈、老廃物を受け取って心臓に戻ってくるときに通るのが静脈です。 心臓から動脈へはいり、全身の細胞を巡って静脈にはいり、再び心臓に戻ってくる――そうやって循環器系はめぐってゆくのです。 そのルートの上に、薬も乗って、血液と共に全身へと運ばれてゆきます。 〈分布〉 このように、循環器系によって、薬が体のあちこちへと広がっていくことを分布と呼びます。分布の過程で、ようやく薬は患部へとたどり着くのです。 でも、「効かせたいところ」がほんの一部分なのに、ぐるぐると体を巡っていてはちょっと効率が悪いですね。そんなことをしている内に、血液の中の薬の濃度は薄くなっていきますし、いらないところにまで薬が作用してしまっては困ります。 そうならないように、なるべく効率よく患部へと薬が届くよう、剤形は工夫されています。 〈体の関所〉 体の中には、簡単に色々なものを通さないように厳重に管理されている、いわば「関所」がいくつかあります。 たとえば、「血液-胎盤関門(Blood-placenta-barrier」や「血液-脳関門(Blood-brain-barrier」です。血液-胎盤関門は、胎盤を通して有害な物が胎児に移行しないようにするためのシステムです。これがないと、小さな赤ちゃんの体に、有害な物質や、大人なら薬になる量でも赤ちゃんにはとんでもない作用を引き起こす物が、どんどん溜まっていってしまいます。血液-胎盤関門は胎児を守るための重要な防壁なのです。 また、血液-脳関門も非常に重要な役割を果たしています。体の細胞は、痩せたり怪我をしたりしても再生していきますが、脳の細胞は一度壊れると再生できないのです。皆さんもよくご存じの通り、人間は脳があるからこそ、物を考えたり、色々なことを感じたり、私たち自身が知らないうちに自動的に体のコントロールがきちんと行われるのです。 いわば、メインコンピューターの中枢回路と言ったところでしょうか そんな大事なところですから、あだやおろそかなものを通して、脳にもしものことがあっては困ります。血液-脳関門は生命活動や知的活動に不可欠な脳を守るため、日夜寝ずの番をしているのです。 でも、薬の中には脳まで届いていってくれないと困る薬もあります。神経系の薬などがそうですね。こういう種類の薬は、血液-脳関門を通してもらうために、血液-脳関門が普段から通過を許可している物質の形を真似します。つまり、通行手形をあらかじめ用意していくのです。そうすると、血液-脳関門も、「うむ、通ってよし」と、すんなり通してくれるというわけです。 〈内服薬以外のルート〉 それでは、内服薬以外の場合、どんなルートで薬は分布していくのでしょうか。 門脈を通るのは内服薬だけだというのは前にお話ししましたね。ですから、他の剤形は肝臓での初回通過効果を受けずに済みます。 熱冷ましなどの坐薬も、消化のプロセスや代謝によって化学変化を起こさず、速やかに心臓へと向かうため、速く、良く効くのです。 また、皮膚粘膜から吸収するルートをたどる薬もあります。人間の皮膚の表面積は、伸ばすと畳一畳分もあると言われています。その下には毛細血管が密集していて、皮膚に塗られた薬は表皮から真皮に浸透し、毛細血管へと運ばれてゆきます。 このとき、吸収をうながすために、様々な工夫が凝らされています。 たとえば、アルコールはある種のホルモン剤の吸収を良くすることで知られています。これが明らかになってから、今まで内服薬しかなかった薬が、皮膚から薬を吸収させるタイプの貼り薬へと進化しました。 最も吸収の早い剤形は何と言っても注射。と、言っても、打つ場所によって吸収の早さは変わってきます。それを利用して、早く吸収させたい薬は静脈に直接注射して即効性を得ることができます。 筋肉注射、皮下注射などは、静脈にはいるまでに、色々と抜けなくてはならない場所があるので、その分吸収はゆるやかになります。 どのルートを選ぶかは、その薬をどんな風に効かせたいかによって決まります。 〈排泄〉 患部に届いて、効き目を発揮し、役目を終えた薬は最後に排泄されて体から出て行きます。 循環器系をぐるぐるとめぐるうちに、徐々に肝臓によって代謝され、分解された薬は、水に溶けて、老廃物などと一緒に腎臓へと送り込まれます。 腎臓は血液を濾過する大切な器官です。腎臓は、1時間の内に何と7リットルもの血液を濾過します。 腎臓がうまく働かないと、いつまでたっても老廃物は体から排出されずに、延々と体を循環し続けることになってしまいます。いつも、体の中をキレイにしておくためには、排泄はとても大切なことなのです。 さて、老廃物を含んだ血液は、糸球体で絞られていらない物だけが外に流れます。濾過されたときに残った栄養素は、再び吸収されて再利用されます。できた尿は膀胱へ送られ、薬のいらない部分もここに混じります。 アリナミンなどのビタミン剤をたくさん取った後に尿を出すと、鮮やかな黄色に染まった尿が出ます。これは水溶性ビタミンの色なので心配することはありません。 排泄は内服薬でもその他の剤形でも、必ず最後にたどるプロセスです。 ただ、薬によっては、排泄されずに少しずつ体内に蓄積するものもあります。これは薬だけでなく、食べ物や飲み物に含まれている物質でも同じです。 排泄物は尿だけではありません。便や汗、吐く息、唾液、涙などからも排泄は行われます。今、デトックスが流行していますね。とても良いことだと思います。 腎臓は肝臓と同じく、毎日重労働をしています。運動や入浴などでいい汗をかいて、腎臓の負担を減らしてあげれば、腎臓も無理をせずに済み、その分長く丈夫に使ってゆけるのです。 無駄に薬をのまないこと。決められた量を守り、必要な分はきちんとのむこと。正しい飲み方をすること。アルコールなどで肝臓に負担をかけないこと。腎臓に負担をかけないように、上手に汗をかいて排泄を助けること―――――私たちが自分でできることは色々あります。 薬の恩恵を最大限に受け、デメリットを上手に減らす。そんな風に、みなさんもうまく薬と付き合っていって下さい
真宮里沙 投稿日:2007年8月2日 |
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